東京高等裁判所 昭和31年(う)3210号 判決
被告人 ジヨン、エツチ、スタンレー
〔抄 録〕
控訴趣意第四点について。
なる程、原判決は証拠の標目として被告人の検察官に対する供述調書を挙示しているが、記録によれば、その和文の調書には被告人の署名又は押印はなく、英文の調書にのみ被告人の署名のあること、及び右和文の書面は、被告人が検察官に対して英語で供述したことを原審証人ジヨージ順田が日本語に通訳し、これを検察官が録取したもので、その英文の書面は、後日同証人が更にこれを英語に飜訳したものであることは、所論の通りである。そこで、所論は、かくの如き検察官調書は刑事訴訟法第三百二十二条第一項にいわゆる「被告人の供述を録取した書面で被告人の署名若しくは押印のあるもの」には該当しないから、証拠能力なく、これを断罪の資料に供した原審の訴訟手続には法令の違反があり、この違反は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は破棄せらるべきである、と主張する。然し、右条項が供述録取書に供述者の署名若しくは押印を要求している所以は、供述者をして供述内容の正確性を承認させようとするところにある、と解すべきところ、右英文の調書は前記の通り右証人が原本たる和文調書に基き飜訳して作成した書面であるから、かかる関係にある調書を原判示の如く「被告人の検察官に対する供述調書」と記載し証拠として採用する以上、原本たる和文調書と共に訳文たる英文調書をも一体として引用したものと解すべきことは理の当然であり、而かもその訳文たる英文調書に被告人自身の署名がある上に、右和英両文調書双方に同証人が通訳の相違ないことを担保して署名しているのであるから、被告人の調書の正確性承認の効果は当然和文調書に及ぶものと解するのが相当である。従つて、原審が右両調書を一括して前掲条項にいわゆる被告人の供述録取書として採用し、断罪の資料に供したことはまことに適法であつて、その訴訟手続にはいささかも法令の違反はなく、論旨は理由がない。
(中西 山田 石井謹)